この国の殺伐の中で
『日本でいちばん大切にしたい会社 』という本を読んだ。
もともと、同僚が読んで非常によかった、ということで薦められた本だ。普段、あまりこういったものは読まない。というのも、興味を持って読んでみると、なんだ結局努力主義、滅私奉公美談ではないか、というものが多いのだ。
ではなぜ今回読んでみたかというと、「伊那食品工業」が紹介されていたからだ。
長野県民ならみな知っているだろう。そう、あの「かんてんぱぱ」だ。地元の企業が載っているから読もう、勿論それもあるだろうが、私の心が動いたのは、伊那食品工業にまつわる驚くべき逸話があったからだ。
どんな話か。何年か前に、お昼の情報番組(みのもんたの、アレですよ)で「ダイエットには寒天!」か何か、紹介された。嫌な話だが、最近の”バナナダイエット”のように”寒天ブーム”が起きたわけだ。「かんてんぱぱ」というくらいだから、勿論そのブームの影響で収益が延びた。普通は、そのあぶく銭で事業拡張するものだが、伊那食品工業では何とその分をほぼすべて社員のボーナスに当てたというのだ。噂では給与10ヶ月分とか言われていた。それを聞いたときには全くたまげてしまったものだ。
そして読んでみたのだった。かの社の理念は「いい会社をつくりましょう」だという。そのために目指すこととして”顧客の満足”よりも先に”社員の満足”を挙げている。ホントかよ、と思う。一度、敷地内にあるレストランで食事をしたことがあるのだが、そこについても言及されていて、全て社員がやっているんだとか。確かに素人臭い接客だったし、少々脂っこ過ぎる炒め物が出てきたっけ。しかし普通は別会社、所謂アウトソーシングだ。社員に、というのはただ利益だけを目的として運営しているわけでは無いらしい。
さらに件の”ボーナス事件”だ。直接ボーナスのことに触れてはいないが、もうひとつ、経営方針として「景気(流行)を追わない」というのがあるという。「流行嫌い」といえば藤沢周平だが(←関係ない)、寒天がブームになった際も、殺到する注文をその方針にもとづき断ったそうだ・・・でも待てよ、ボーナスは?
この本によれば、社員が「欲しいといっている人たちがいるんだから、少しでも願いに応えてあげよう」と言い出して増産したという。これもホントかよ!という話だ。だが、その頑張りに応えての”ボーナス10ヶ月”だとすると、状況証拠はあることになる。一体何ということだろう!
全体的には、業績を上げるには”オンリーワン”だ、政治や社会のせいにしないで努力しろ、など少々微妙な立場をもって書かれている。また社員を大切にし、自力でやるのが正しい、”正しい経営”をしていれば結果は付いてくる、などお気楽に聞こえてしまう部分も多々ある。しかし、この本がベストセラーになっているというのはどういうことなのか?
ここには他の企業もいくつか紹介されている。大雑把に言えば、それらも「目の前の数字だけに囚われず、社員を大切に育て、社会に貢献する」企業といえるだろう。これは、品川正治氏もこの間あちこちで発言していることだ。要は、”日本的経営の良い部分”ということになるだろう。新自由主義が蔓延り、ズタズタになった労働環境。誰もが生き辛さと”限界”を感じる日本で、もういちどそちらに目が向いているのだろう。確かに旧来の日本的経営を崇めるような懐古趣味・復古主義ではどうにもならないだろうが、先に挙げた著者の経営感覚が一般サラリーマンや中小企業経営者に受け入れられているのかもしれない。
最近、雇止め予告や失業で困窮している在日ブラジル人の方たちの集会に参加した。雇用状況が急激に悪化を続けるなかで、やはり最も先にしわ寄せを喰うのは、彼らのような社会的弱者だ。長く日本に暮らし、生活はほとんど日本人と変わらない。子どもは大きくなれば、公立学校に行っているケースがほとんどだ。なのに「日本人では無いから」という理由で真っ先に雇用を切られる。各種の制度を利用しようと思っても、漢字の読み書きと言う壁にぶちあたり、十分に利用することが出来ない。さらに差別だ。ひもとけば、'90年代に大量のブラジル人が労働者として入国できるようになったのは、そもそも企業の要請による法改正だという。
この状況において、まだ「消費税は最大17%必要」とのたまうお偉いさん方がいらっしゃる。こんなこといったら豚に失礼であるが、自分のケツを拭くこともしない豚のような資本家連中だ。そんな連中には早々に退散していただかなければならない。サヨク的な観点から見れば、この本の内容は政治的に甚だ不充分ではある。しかし、「人を大切にする」ことに感動する心がこれだけある、ということに希望を見出したい。
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